宝 物
学校の帰りに摘みとってきた野の花。茶碗より一回り小さな錫の入れ物に入れ、棚の上に飾りました。傍で祖母が嬉しそうに眺めてくれたことを思い出します。
あの時の入れ物の正体は、毎朝神棚にご飯を入れてさし出す器。神聖な神事の道具だったのです。
詳しい講釈は一切必要無し。その瞬間に美しいと感じた「何か」が大母の宝物。燻したような色合い、鮮明なすつきりした色合い、動くもの、動じないもの、霞みのような小さなもの、山のようなでっかいもの、歪なもの、平らなもの出会った瞬間に美しいと感じる物全てが大母の宝物。
あの時の祖母の寛容さは何だったのか?
74年間の人生の半分を脳卒中による右半身不随の体で生き抜いた祖母。仕事をしている時が一番良か……と職人技の家業の中で、片手でも出来る仕事を見つけ出してきては自室でこなしていた。
「悔いは残すな……」祖母の生き様から学んだ。形式にとらわれるな。その一瞬を大切にしなさい……、と。ひと、もの、全てに対し、一生に一度の機会と心得よ、と。
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